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成長ホルモン療法とは?効果と安全性:治療のメリット・リスクを丁寧に紹介

2026.02.26

お子様の身長について、「同年代の子と比べて小さい」「将来、身長で困ることはないだろうか」といった不安や疑問をお持ちの保護者の方は少なくありません。身長の伸び方には個人差がありますが、その改善を目指す医学的な介入として「成長ホルモン治療」への関心が高まっています。

成長ホルモン治療は、数十年にわたる歴史と研究の蓄積があり、適切に行われれば高い効果と安全性が期待できる確立された治療法です。しかし、体外からホルモンを補充するという性質上、その効果のメカニズムや、どのようなリスクが伴うのかを正確に理解することが不可欠です。

本本稿では、小児内分泌学(成長とホルモンの専門分野)の視点から、成長ホルモン治療の効果と安全性について、最新の科学的根拠に基づき詳しく解説します。保護者の皆様が十分な情報を得た上で、納得のいく選択をするための一助となることを目指します。

成長ホルモンとは何か?

成長ホルモン(Growth Hormone: GH)は、脳の底部にある「下垂体」という器官から分泌される、身体の成長を司る最も重要なホルモンの一つです。

役割とメカニズム

成長ホルモンは、その名の通り、身長を伸ばす(骨を成長させる)作用を持ちます。成長ホルモンは血流に乗って全身に運ばれ、主に肝臓などに作用して「IGF-1(インスリン様成長因子-1)」という物質の産生を促します。
このIGF-1が、子どもの骨の端にある「骨端線(成長板)」と呼ばれる軟骨組織に働きかけ、軟骨細胞の増殖を促進することで、骨が縦方向に伸びていきます。
また、成長ホルモンには、タンパク質の合成を促進して筋肉の発達を助けたり、脂肪の分解を促進したりするなど、代謝をコントロールする重要な役割もあります。

分泌のリズム

成長ホルモンは一日中分泌されていますが、特に夜間の深い睡眠中や運動後に多く分泌されます。「寝る子は育つ」というのは、このメカニズムに基づいた科学的な事実と言えます。
もし、何らかの原因で成長ホルモンの分泌が著しく不足したり、その働きが妨げられたりすると、成長速度が低下し、低身長を引き起こすことになります。

成長ホルモン治療の概要

成長ホルモン治療は、遺伝子組換え技術によって作られたヒト成長ホルモン製剤を体外から補充する治療法です。

治療の目的

治療の目的は、成長ホルモンが不足している場合にそれを補うこと、あるいは成長ホルモンの分泌は正常であっても、人為的に成長ホルモンの作用を高めることで、成長速度を加速させ、最終的な成人身長を改善させることです。
この治療は、骨端線が開いている(軟骨組織が残っている)成長期の子どもにのみ有効です。骨端線が閉鎖し、大人の骨になった後は、成長ホルモンを投与しても身長が伸びることはありません。そのため、治療にはタイムリミットが存在します。

治療の方法

治療は、主に皮下注射によって行われます。成長ホルモンはタンパク質であり、経口摂取では消化・分解されてしまうためです。効果を持続させるためには、原則として毎日の注射が必要です。
近年は、注射器の進歩により、非常に細い針を使用したペン型の注入器が主流となっており、痛みは大幅に軽減されています。保護者の方が自宅で行う「自己注射」が基本となります。最初は不安を感じるかもしれませんが、医療スタッフの丁寧な指導により、ほとんどのご家庭で安全に実施できるようになります。注射部位は、皮膚が硬くならないよう毎回場所を変える(ローテーション)ことが重要です。 投与量は、お子様の体重や治療目的、個々の反応性に基づいて、医師が精密に設定します。

成長ホルモン治療の対象

成長ホルモン治療には、「保険診療」と「自費診療(自由診療)」の二つの枠組みがあります。

保険診療の対象

保険診療は、国が定めた「疾患」の治療を目的として行われます。成長ホルモン治療が保険適用となるのは、以下のような特定の疾患があり、かつ厳格な診断基準を満たした場合です。

  • 成長ホルモン分泌不全性低身長症(成長ホルモンの分泌が著しく不足している状態)
  • ターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群
  • 軟骨無形成症・軟骨低形成症
  • SGA性低身長症(小さく生まれ、成長が追いつかない場合)など

自費診療の対象と意義

一方で、精密検査を行っても明らかな病的原因が特定されない低身長を「特発性低身長(ISS)」と呼びます。家族性低身長や、いわゆる「晩熟(おくて)タイプ(体質性成長・思春期遅延症:CDGP)」も含まれます。
日本の保険制度の基準は厳格であり、原則としてISSは保険診療の対象とはなりません。また、保険診療では投与量に制限があり、個々の体質に合わせた最適化された治療設計が困難な場合があります。
自費診療は、こうした保険診療の枠組みではカバーされないお子様に対して、身長改善の機会を提供します。自費診療では、医学的な安全性を最優先した上で、一人ひとりの成長パターンや希望に応じた、より柔軟で個別化された治療計画を立てることが可能になります。これにより、その子が持つ「可能性としての最終身長」を最大化することを目指します。

成長ホルモン治療の効果(メリット)

成長ホルモン治療によって期待される主な効果は、身長の改善です。

身長改善効果

治療を開始すると、多くの場合、治療前と比べて成長速度が明らかに増加します。特に治療開始後1〜2年は効果が顕著に現れます。その後、効果は徐々に緩やかになりますが、治療を継続することで、最終的な成人身長の改善につながります。
特発性低身長(ISS)に対する効果については、世界中で多くの研究が行われています。米国では2003年からISSに対する成長ホルモン治療が承認されており、多くの臨床データが蓄積されています。複数の研究を統合した解析では、ISSに対して成長ホルモン治療を行った場合、治療を行わなかった場合と比較して、最終身長が平均して約3〜7cm程度改善することが示されています(1)。

効果に影響する因子

ただし、治療効果には大きな個人差があります。効果を左右する主な因子は以下の通りです。

  • 治療開始年齢と骨年齢:年齢が若く、骨年齢が幼い(骨の成熟が進んでいない)段階で開始するほど、効果は大きくなる傾向があります。
  • 投与量と治療期間:適切な投与量で、骨端線が閉鎖するまで治療を継続することが重要です。
  • 個人の反応性:成長ホルモンに対する感受性には個人差があります。

当院では、これらの因子を総合的に評価し、個別のデータに基づいた身長シミュレーションを行うことで、期待される効果について具体的にご説明します。

副次的な効果

成長ホルモンには代謝を改善する作用もあるため、治療によって体脂肪が減少し、筋肉量が増加するといった身体組成の改善効果も期待できます。また、身長が改善することで、自信が向上するなど、心理的なQOLの改善につながることも重要なメリットです。

成長ホルモン治療の安全性とリスク(デメリット)

成長ホルモン治療は、適切に管理されれば安全性の高い治療法ですが、医学的な介入である以上、副作用のリスクはゼロではありません。メリットとリスクのバランスを正しく理解することが重要です。

安全性の歴史と現在の認識

成長ホルモン治療の歴史は古く、初期にはヒトの脳下垂体から抽出したホルモンが使用されていましたが、過去にこの抽出製剤を使用した一部の患者で、稀な感染症(クロイツフェルト・ヤコブ病)の発生が問題となりました。
現在使用されている成長ホルモン製剤は、すべて遺伝子組換え技術によって製造されており、感染症のリスクは完全に排除されています。世界中で多くの子どもたちがこの治療を受けており、その安全性は確立されています。

一般的な副作用

比較的頻度が高いものの、多くは軽微で一過性の副作用です。

  • 注射部位反応:注射した部位が赤くなる、腫れる、かゆくなるなど。
  • 頭痛、関節痛、筋肉痛:治療開始初期に見られることがありますが、多くは自然に軽快します。
  • 浮腫(むくみ):成長ホルモンの体液貯留作用により、手足がむくむことがあります。

注意すべき副作用

頻度は低いものの、注意が必要な副作用もあります。

  • 耐糖能異常(血糖値の上昇):成長ホルモンにはインスリン(血糖値を下げるホルモン)の働きを弱める作用があるため、稀に血糖値が上昇することがあります。
  • 甲状腺機能低下症:稀に甲状腺ホルモンの働きが低下することがあります。
  • 大腿骨頭すべり症:股関節の成長軟骨がずれる病気です。急激な成長に伴って発生リスクが高まる可能性があります。歩行時の股関節や膝の痛みを訴える場合は、速やかに医師に相談する必要があります。
  • 側弯症の進行:背骨が曲がる側弯症が、急激な成長によって進行することがあります。
  • 頭蓋内圧亢進(偽脳腫瘍):非常に稀ですが、頭蓋内の圧力が高まり、強い頭痛や嘔吐を引き起こすことがあります。
  • 膵炎:非常に稀ですが、強い腹痛や嘔吐が見られる場合、膵炎の可能性も考慮する必要があります。
  • 女性化乳房:男児において、稀に乳房が腫れることがありますが、多くは一過性です。

また、薬剤に対する重篤なアレルギー反応(アナフィラキシー)の可能性もゼロではありません。万が一、全身の蕁麻疹や呼吸困難が見られた場合は、直ちに投与を中止し、救急対応が必要です。

長期的な安全性について(発がん性など)

「成長ホルモンは細胞増殖を促進するため、がんのリスクを高めるのではないか」という懸念を持つ方もいらっしゃるかもしれません。
この点については、世界規模で大規模な追跡調査が行われています。現在の医学的コンセンサスとして、過去にがんの既往歴がない子どもが、適切な投与量で成長ホルモン治療を受けた場合、将来的な発がんリスクを上昇させることはないと結論づけられています(2)。

安全な治療のための体制とモニタリング

成長ホルモン治療の安全性を確保するためには、小児内分泌学の専門知識と経験を持つ医師による、厳密な管理が不可欠です。

定期的なモニタリング

治療中は、定期的な通院(原則3か月毎)が必要です。以下の項目をチェックし、治療効果と安全性を評価します。

  • 身長・体重測定:成長速度を評価します。
  • 診察:体調変化や副作用の有無を確認します。
  • 血液検査:

    ◦IGF-1値の測定:IGF-1は、成長ホルモンの効果と安全性を評価する最も重要な指標です。IGF-1値が年齢・性別の基準範囲を大きく超えないように、投与量を精密に調整します。

    ◦血糖値、甲状腺機能など:副作用を早期に発見するために確認します。

  • 骨年齢評価(手のX線検査):定期的に骨の成熟度を評価し、残された成長余力や治療終了時期を判断します。

個別化治療の重要性

安全かつ最大の効果を得るためには、画一的な治療ではなく、一人ひとりの状態に合わせて投与量を調整する「個別化治療」が重要です。当院では、定期的なモニタリング結果に基づき、最適な治療計画を常に更新していきます。

おわりに

成長ホルモン治療は、お子様の身長を改善し、将来の可能性を広げるための有力な選択肢です。科学的根拠に基づき、専門医による適切な管理のもとで行われれば、高い有効性と安全性が期待できます。
しかし、長期にわたる治療の負担(注射や通院、費用など)や、副作用のリスクも存在します。治療を開始するかどうかは、これらのメリットとデメリットを十分に理解し、お子様本人の意思も尊重しながら、ご家族全員が納得した上で判断することが何よりも大切です。
当院では、豊富な臨床経験と最新の知見に基づき、一人ひとりの成長パターンを詳細に評価し、科学的根拠に基づいた正確な情報提供を行います。お子様の健やかな成長と未来のために、信頼できるパートナーとして、診断から治療、長期的なフォローアップまで、責任を持ってサポートしてまいります。

【出典・参考文献】
(1)Cohen P, Rogol AD, Deal CL, et al. Consensus statement on the diagnosis and treatment of children with idiopathic short stature: a summary of the Growth Hormone Research Society, the Lawson Wilkins Pediatric Endocrine Society, and the European Society for Paediatric Endocrinology Workshop. J Clin Endocrinol Metab. 2008;93(11):4210-4217.
(2)Sävendahl L, et al. Long-Term Safety of Growth Hormone Treatment in Childhood: A large Observational Study. J Clin Endocrinol Metab. 2020;105(7):dgaa241.
・日本小児内分泌学会編. 小児内分泌学 改訂第3版. 診断と治療社.
・日本内分泌学会.https://www.j-endo.jp/

RESERVE

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